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東京地方裁判所 平成10年(ワ)17625号 判決 1999年6月29日

東京都中野区中央一丁目四六番六号

原告

ソフト・オン・デマンド株式会社

右代表者代表取締役

平田恵介

右訴訟代理人弁護士

笹波恒弘

笹波雅義

竹内英郎

東京都中野区本町二丁目五一番一〇号

被告

株式会社スピリッツ

右代表者代表取締役

田野井隆雄

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主文

一  被告は、原告に対し、金一五万円及びこれに対する平成一〇年八月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告は、原告に対し、九七万五一六〇円及び内金六七万五〇〇〇円に対する平成一〇年八月一一日から、内金三〇万〇一六〇円に対する同年九月三〇日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告が被告に対し、原告が著作権を有するビデオソフトを被告が多数の顧客に貸与(レンタル)したことが原告の著作権(映画著作物の頒布権)の侵害に当たると主張して、損害賠償を求めている事案である

一  争いのない事実

1  原告は、ビデオソフトの制作、販売などを主な業務とする株式会社であり、被告は、ビデオソフトの貸与を主な業務とする株式会社である。

2  原告は、別紙一「著作物目録」記載の四六作品のビデオ映画(以下「本件著作物」と総称する。)の著作権者である。本件著作物は、映画の著作物である。

3  被告は、平成八年一二月から同一〇年五月までの間、東京都中野区本町二丁目五一番一〇号所在の店舗「ロムハウス」(以下「被告店舗」という。)において、本件著作物の複製物であるビデオソフト五〇本(別紙一「著作物目録」の「陳列本数」欄参照。以下「本件ビデオソフト」と総称する。)を、多数の顧客に貸与した。

二  争点及びこれに関する当事者の主張

1  被告による本件ビデオソフトの貸与が原告の頒布権を侵害するか。

(一) 原告の主張

ビデオ映画を多数の顧客に業として貸与することは映画の著作物の頒布に該当するから、被告が、原告の許諾を得ることなく、本件ビデオソフトを貸与した行為は、本件著作物についての原告の著作権(頒布権)の侵害を構成する。

(二) 被告の主張

原告制作の本件ビデオソフトがレンタル禁止であるとは知らなかった。殊に、本件ビデオソフトのうち「レンタル禁止」、「レンタル厳禁」等の表示のないものは、訴訟の対象になるものでない。

2  原告の損害の額

(一) 原告の主張

(1) 被告店舗におけるビデオソフト一本の貸出料金は一回二七〇円であり、本件ビデオソフトの貸出回数は、別紙二「原告計算書」記載のとおり、合計三八八八回を下らないから、被告が本件ビデオソフトの貸与により得た売上は、一〇四万九七六〇円となる。

(2) 被告による本件ビデオソフトの仕入金額は、合計七万四六〇〇円であり、これを右(1)の売上から差し引いた九七万五一六〇円が、被告が本件ビデオソフトの貸与により得た利益である。

(3) 被告の右(2)の利益は、原告の著作権を侵害することにより得た利益であり、原告の損害と推定される。

(4) よって、原告は被告に対し、著作権侵害に基づく損害賠償請求として、九七万五一六〇円及び内金六七万五〇〇〇円に対する平成一〇年八月一一日(訴状送達の日の翌日)から、内金三〇万〇一六〇円に対する同年九月三〇日(請求拡張の申立ての翌日)から、各支払済み主で年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二) 被告の主張

(1) 本件ビデオソフトを多くのレンタル店が仕入れたことによって原告は売上を計上できたと想定されるし、レンタルと販売とでは客層が一致しないから、被告が本件ビデオソフトをレンタルすることによって原告の売上が減少したとは考えられない。

(2) 原告が別紙二「原告計算書」で主張する貸出回数は、被告店舗における同種のビデオソフトの貸出回数に比べ過大である。

(3) 本件ビデオソフトのレンタルにより得た被告の利益は、被告店舗におけるいわゆるアダルトビデオのレンタルによる総収入に、アダルトビデオの総本数に占める本件ビデオソフトの本数の割合を乗じた金額(一九万六四一七円)から、本件ビデオソフトの仕入金額(七万四六〇〇円)及び諸経費(一一万四一四五円)を差し引いて計算するのが正確であり、そのように計算すると、被告の利益は七六七二円となる。

第三  争点に対する判断

一  争点1(頒布権侵害の成否)について

原告は、映画の著作物である本件著作物の著作権者であるから、著作権法二六条一項により、本件著作物をその複製物により頒布する権利を専有している。また、同法にいう「頒布」には、複製物を公衆に貸与することが含まれる(同法二条一項一九号)。

したがって、被告が本件著作物を公衆に貸与した行為が原告の本件著作物に係る著作権(頒布権)を侵害することは明らかである。そして、映画の著作物の著作権者がその複製物を無断で貸与する行為に対して頒布権侵害として権利行使をするためには、当該著作物の複製物に貸与禁止の旨を表示することが前提要件となるものではないから、被告の主張は採用できない。

二  争点2(原告の損害の額)について

1  後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事情が認められる。

(一) 被告店舗で本件ビデオソフトが貸与に供された期間は、別紙一「著作物目録」中の「発売日」欄記載の日が属する月(ただし、発売日が平成八年一一月以前のものは、同年一二月)から平成一〇年五月までの間であり、番号1ないし12のもの(一四本)が一八か月(一か月に満たない期間は切上げる。以下同じ。)、番号13ないし21のもの(九本)が一四か月、番号22ないし29のもの(一〇本)が一二か月、番号30ないし32のもの(三本)が一一か月、番号33ないし37のもの(五本)が六か月、番号38ないし44のもの(七本)が三か月、番号45及び46のもの(二本)が二か月である。

(二) 原告は、別紙二「原告計算書」のとおり、被告店舗における本件ビデオソフト一本ごとの三〇日当たりの貸出回数が、貸与開始後六〇日目までが一二回、六一日目から一二〇日目までが七・五回、一二一日目から一八〇日目までが六回、一八一日目以降が五回であると主張するが、これを裏付ける証拠としては、貸与開始後三〇日間の原告制作のビデオソフトの貸出回数が一一ないし一七回である旨の記載のある、ビデオレンタル業者から原告にあてたファクシミリ文書(甲一〇)を提出するのみである。

(三) 証拠(甲二)によれば、被告は、被告店舗においてビデオソフトを貸与することにより、ビデオソフト一本につき一回当たり二七〇円の収入を得ていると認められる。

(四) 被告が本件ビデオソフトの貸与による利益についての主張を裏付ける証拠として提出した資料の記載内容からは、次のとおり、認めることができる。なお、被告は、被告店舗においてはビデオソフトの貸出等はコンピュータにより管理されているが、本件ビデオソフトに関する記録は消去されたため、本件ビデオソフトの個別の貸出回数等を示す証拠資料はないと述べている。

(1) 被告は、平成八年一二月から同一〇年五月までの期間につき、被告店舗の「売上月報」(乙二の1ないし18)に記載された各月のアダルトビデオの貸与による収入に、当該月に被告の店舗に置かれていたアダルトビデオの総本数に占める本件ビデオソフトの本数の割合を乗じた金額を合算すると、一九万六四一七円となると主張している。

(2) 被告店舗における本件ビデオソフトと同じく、いわゆるインディーズ系アダルトビデオの分野に属するビデオソフトの月別の貸出回数を示す「レンタル商品月別実績台帳」(乙三の1、2)によれば、右ビデオソフトの一か月当たりの平均貸出回数は、別紙三「月別貸出回数」記載のとおり、一か月目(当該ビデオソフトの貸与が開始された月。なお、ビデオソフトの貸与の開始された日が月の途中である場合には、一か月目は、貸与に供される期間が一か月に満たないことになる。)が二・四四回、二か月目が三・一〇回、三か月目が一・六五回、四か月目が一・五九回、五か月目が一・〇六回、六か月目が〇・八七回、七か月目が〇・九五回、八か月目が〇・七四回、九か月目が〇・六六回、一〇か月目が〇・四四回となっている。

(3) 平成八年一一月から同一〇年六月までの期間に係る被告店舗の損益計算書(乙四の1、2)によれば、被告店舗における売上は合計一億九七〇九万七一八八円、仕入金額以外の必要経費は合計一億一三五六万一〇六七円である。右必要経費として金額が計上されているのは、運賃、光熱費、通信交通費、宣伝費、保険料、修繕費、消耗品、給料賃金、地代家賃、リース料、雑費、厚生費及び接待交際費である。

(五) 被告による本件ビデオソフトの仕入金額が七万四六〇〇円であることは、当事者間に争いがない。

2  右の諸事情を総合して検討すると、まず、被告店舗における本件ビデオソフトの一か月当たりの平均的な貸出回数は、一か月目(貸与開始の日を含む月)が三回を、二か月目が四回を、三か月目及び四か月目が二回を、五か月目以降が一回を、それぞれ上回るものではないと推認することができる。右の推認に基づいて計算すると、別紙四「貸出回数計算書」記載のとおり、被告店舗における本件ビデオソフトの貸出回数は合計九二五回となり、これに一回当たり二七〇円の貸出料金を乗じた金額は二四万九七五〇円となるから、これから本件ビデオソフトの仕入代金を差し引いた金額は一七万五一五〇円となる。

また、被告が業として本件ビデオソフトを貸し出すためには、仕入代金以外にも相当の金額の経費が必要であると解されるが、被告が必要経費であると主張する費用は、そのうち地代家賃、給料賃金、宣伝費、光熱費等の被告店舗において本件ビデオソフトを貸与すると否とにかかわらず発生する固定経費が大部分を占めている。運賃、通信交通費等の変動経費についても、本件ビデオソフトを貸し出したことによって特定の費目において具体的に金額が増加したことを認めるに足りる証拠はないが、平成八年七月から同一〇年六月までの間においては、売上合計額一億九七〇九万七一八八円に対して、運賃、通信交通費、消耗品、雑費は、合計一八九〇万五四五三円であり、売上額の約九・六パーセントに当たる(乙四の1、2)。

以上によれば、本件において被告が本件ビデオソフトの貸与により得た利益については、前記売上額二四万九七五〇円の約一〇パーセントを変動経費として仕入代金とともに控除し、利益額を一五万円と認めるのが相当である。

そして、著作権法一一四条一項によれば、被告が本件ビデオソフトの貸与によって得た右利益の額は、原告が本件著作物に係る著作権を侵害されたことにより被った損害の額であると推定される。

3  したがって、原告の請求は、右金額及びこれに対する不法行為の後である平成一〇年八月一一日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

三  よって、主文のとおり判決する。

(口頭弁論の終結の日 平成一一年四月二二日)

(裁判長裁判官 三村量一 裁判官 長谷川浩二 裁判官 大西勝滋)

(別紙一) 著作物目録

<省略>

(別紙二) 原告計算書

<省略>

店頭陳列 レンタル頻度

A=60日まで 2.5日に1回

B=61~120 4日に1回

C=121~180 5日に1回

D=181~ 6日に1回

陳列日数 発売日から平成10年5月末日までの日数。 但し、開店日(H8.12.7)以前発売のものは開店日から計算した。

レンタル単価 270円

総レンタル料-総卸価格= ¥975,160

(別紙三) 月別貸出回数

<省略>

(別紙四) 貸出回数計算書

<省略>

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